起業の形は法人設立と個人事業主のどっち?
法人設立と個人事業主の違い
法人設立と個人事業主の違いは、簡単にいうと会社を立ち上げるかどうかです。法人の場合は、一般的に株式会社や合同会社などをつくり、法務局に法人登記をすることで「法人」として認定されます。法人とは、法律上人格を有し、権利義務の主体として認められたものです。
株式会社や合同会社以外にも、「一般社団法人」や「一般財団法人」など複数の種類がありますが、法人のうち90%近くが株式会社か合同会社になります。株式会社も合同会社も同じ「法人」になりますが、合同会社は2006年に会社法が改正したことで誕生した、比較的新しい会社形態です。
一方、個人事業主は自分自身で事業を営む個人のことを言いますが、個人事業主として開業するための要件として、税務署への「開業届」の提出があります。この届出を行うことで、誰でも個人事業主になれます。
個人事業主の「個人」について簡単に説明しておきます。
まず「事業」というのは、利益を得るための活動を継続的に行うことを指します。例えば商品を仕入れて顧客に販売しその差額でもうけを出す、ということを繰り返し行うことです。この事業活動を個人で営むのが個人事業主ですが、一人で行うことが前提になっているわけではありません。飲食業や小売業で二人以上の店員(従業員)がいる店舗は、どこでも見られる光景ですが、このような店舗が「個人事業」の形態であることは多いです。
つまり、法人か個人事業主かの違いは規模や従業員数は関係なく、あくまでも「法人登記」「開業届」という、事業を行うに当たっての手続きによって分かれるということです。ですから「自営業」や「フリーランス」といった呼称においても、法人化した中での活動もあれば個人事業主としての活動もあるわけです。
法人設立するメリット・デメリット
【メリット1 税金】
まず、税金についてのメリットです。
法人にかかる税金はいくつもありますが、主なものは以下の通りです。
・法人税/復興特別法人税
・法人住民税
・法人事業税
・地方法人特別税
・消費税
このうち「法人税」は事業年度内の事業所得に対し課され、中小以外の普通法人では税率が一定で23.2%となっています(2018年4月1日以降)。この税率が一定というのが一つのポイントで、事業所得額が大きくなっても課税の割合が変わらないということはメリットと言えます。ですから、業績が順調に拡大してきたとか、事業所得が大きいという場合は、法人化した方が節税効果を得られると考えられます。
なお、中小法人(事業年度終了時点で資本金額が1億円以下など)では優遇措置があり、事業所得800万円以下については税率が引き下げられます。
また、事業所得金額(課税所得金額)は「益金-(マイナス)損金」で算出します。「損金」には、主に販売物品の「原価」、販売費などの「費用」がそれに当たりますが、損金を増やすことで課税対象となる所得金額を減らすことができます。例えば、社員の慰安のための旅行などのイベント費用、一定範囲内での交際費などがその対象になります。社長をはじめ役員報酬も損金に入りますが、金額を事前に確定させておく必要があります。この他損金算入のルールは細かくあるので、それらを踏まえた上で収支予測を立て、どれほどの節税効果が出るかを確認してみるといいでしょう。
【メリット2 社会的信用】
次に大きなメリットとして「社会的な信用」が挙げられます。ビジネスの世界では、さまざまな企業同士が商取引によって協力や連携をしながら経済活動を行います。そこには「信用」が介在しており、取引相手の業績や経営基盤、将来性、リスク回避などを含めて信用に足るかどうかが常に見られ、判断されています。その点で、会社組織の形態を持つ法人は信用度が高いと言えます。中には経営上の規定で、取引は法人に限定している会社もあるくらいです。
同じ理由で「資金調達がしやすい」というメリットもあります。金融機関からの「信用」は個人事業主よりも法人の方が得られるというのは一般的な認識でしょう。ただし、経営形態がどちらであっても、融資を受けるためには、しっかりした事業計画と安定的に業績が向上する将来性を提示できることが必須です。
【メリット3 債務リスクの有限責任】
事業では、経営状態が悪化して資金繰りがうまくいかなくなることもあり得ます。もしも支払いが滞ったり倒産してしまったりした場合、法人ではその社員の責任が自分の出資金の範囲に限られます(有限責任)。つまり、会社が抱えた債務に対して個人の資産は責任の範囲外なので、万が一の時でも差し押さえられるなどということはありません。
【デメリット1 設立準備・費用】
次に法人設立のデメリットを見ていきます。まず、設立のための準備が面倒で各種手続きに費用がかかる、ということがあります。準備としては、定款の作成、株券の作成(株式会社)、公証人認証、法人登記申請(登記書類の作成)、各種印鑑作成、資本金の払い込みなどがあります(店舗事務所や設備などの準備は除く)。これらには全て費用がかかるので、その分の資金を用意しておく必要があります。一般的に数十万円は必要だと言われています。また、並行して社会保険への加入手続きなども必要になります。
【デメリット2 会社資産と個人資産の明確な線引き】
法人では事業収益を含めた会社の資産はすべて法人のもので、個人の資産とは明確に区別されます。ですから、経営者であっても会社の資産を私的に使うことはできません。具体的な例を挙げると、従業員が社長である自分一人の法人を設立したとします。その場合、社長(自分)に支払う役員報酬はあらかじめ設定しておかなければなりません。もしも事業年度内に予想以上の収益が得られたとしても、社長は設定した報酬を超える金額を自分のためにもらうことができません。役員報酬は損金に算入できますが、上限内での毎月定額などの取り決めがあります。
個人事業主のメリット・デメリット
【メリット1 開業手続き】
個人事業主のメリットから見ていきます。まず、個人事業主は開業手続きが楽です。管轄の税務署に「個人事業主の開業届出書」を提出するだけで始められ、費用もかかりません。ただし決算月は決められていて、事業年度は一律1月~12月です。これはどの事業主も変更することはできません。12月の決算期に沿って、翌年に確定申告を行うことになります。
【メリット2 事業収益=個人収入】
法人と違い、個人事業主には「報酬(給与)」という概念がありません。「事業で得た収益=(イコール)個人事業主の収入」となります。つまり、考え方としてはすべて自分の収入と言えます。ですから収益が多ければ、調整しながら個人的に使える金額を増やすこともできるでしょう。ただし、会計上「経費」として認められるのは、事業に関連するものだけで、事業に関係のない個人的に使った費用は「事業主貸(じぎょうぬしかし)」という勘定科目として仕分けします。節税に効果があるのは経費として差し引ける分になるので、そのバランスはよく考えて管理する必要があります。
【デメリット1 所得税の税率】
続いてデメリットです。個人事業主が納めなければならない税金は、主に
・所得税
・住民税
・個人事業税
・消費税
です。
このうち「所得税」は事業所得に課される税金です。所得税の税率は、所得金額の上昇に応じて段階的に高くなっていく方式なので、売上が向上して事業所得が増えると支払う税額も増えることになります。法人税は税率が一定なので、事業所得金額によっては法人化した方が節税できる場合があります。業績の拡大に伴って個人事業主から法人化を検討する人が多いのは、この税金面が一つの大きな理由でしょう。
【デメリット2 社会的信用】
法人のメリットと相反するデメリットです。理由も前述の法人メリットと反対となります。とはいえ、飲食業では特有の仕入先や流通経路が確立されているという部分もありますし、こだわりの食材を仕入れるために直接特定の農家と契約する人もいますから、大口の取引や、ある企業の商品がどうしても必要だという場合以外では、起業に際してはあまりネックにならないかもしれません。むしろ魅力的な商品を提供することで、消費者の信頼を得る方が重要かもしれません。
この他、まだ双方に細かなメリット・デメリットはありますが、起業の理由や目指す方向などを考えて、法人設立・個人事業主それぞれの特徴に照らして最適な形を選択することが大事ではないでしょうか。
こんな記事も読まれています
- 賃貸事業用コンテンツ
- 店舗開業の手順 コンセプト固め~開店まで
- 賃貸事業用コンテンツ
- フランチャイズという起業の選択肢を考える
- 賃貸事業用コンテンツ
- 「商店会」などの団体について
- 賃貸事業用コンテンツ
- リースバック方式での新規店舗開業について
- 賃貸事業用コンテンツ
- 個人開業で知っておくべき確定申告について